伊井直行

(イイ ナオユキ)

略歴

 1953年、宮崎県生まれ。慶大文学部卒。小説家。初期は幻想的な作品が多いが、最近はポリフォニーの手法によって物語をわざと裏切り、諧謔を楽しむ作風に変わってきた。『進化の時計』で1994年度平林たい子賞受賞。1996年 4月より「三田文学」編集長を一年間つとめる。2000年、『濁った激流にかかる橋』で読み売り文学賞受賞。

作品

『草のかんむり』
 有名な医師だった祖父のライバルと称する男に、カエルに変えられてしまった受験生が、女の子の助けで人間にもどるまでを語るファンタジックな冒険小説。群像新人賞受賞。
『悲しみの航海』
 造船所を中心とした小さな町と、その造船所にドック入りした謎の客船の歴史を魔術的リアリズムの手法で描いた傑作。朝日新聞社から出た単行本は古文書のような色の紙質の紙をつかっていて、独特の味わいがあった。
『さして重要でない一日』
 表題作は、若い社員がコピー機をさがして会社の迷宮の中に迷いこんでしまう幻想的な作品。会社伝説を通してサラリーマンを描こうとした試みの最初の達成。野間文芸新人賞受賞。「パパの伝説」を併録。
『湯微島訪問記』
 瀬戸内海にうかぶ湯微島という風光明眉な島をめぐるオムニバス作品集。
『本当の名前を捜しつづける彫刻の話』
 「眠りのない夜」、「海山寮の冬」、「希望症」、「ぼくの首くくりのおじさん」、「本当の名前を捜しつづける彫刻の話」、「材木座海岸」を収録する短編集。「材木座海岸」は名作。
『雷山からの下山』
 地主の一族だが、宅地開発によって地縁を失い、会社でも疎外されかけているアパートの大家と、そのアパートに住む、会社をやめてフリータ暮らしをはじめた青年の引っ越しを平行して描く。小説家が避けてきたサラリーマンという主題に果敢にいどんだ作品。
『星の見えない夜』
 出版社に勤める青年の恋愛を描いたロマンチックな作品。サラリーマンを描こうとした試みが生んだ傑作。
『進化の時計』
 知能をもった小さな新世界猿をめぐる陰謀と冒険をポリフォニーの手法で描く。おもしろい物語を提供する一方、その物語への没入を牽制しつづけるところに、この作家の真骨頂がある。平林たい子賞受賞。
『ジャンナ』
 睡り病の妻をもつ小説家が、自分は猫になったと言いだし、勝手に友人の恋人の実家に住みこんでしまう。リアリズムでありながら、目眩いがしてくる不思議な感触がある。
『三月生まれ』
 地方の企業城下町に、かつてその町を支配した大地主の一族の流れをくむ家族が移ってくる。一家をめぐる町の人々の大騒ぎを医者の息子の視点から描き、日本の一断面をあざやかに切りとっている。

(C) 2000 Kato Koiti


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