演劇ファイル  Jan - Dec 1995

1994年12月までの舞台へ
1996年 1月からの舞台1へ
加藤弘一

*[01* 題 名<] オセロ
*[02* 劇 団<] 幹の会
*[03* 場 所<] 紀伊国屋
*[04* 演 出<] 栗山民也
*[05* 戯 曲<] シェイクスピア
*[05* 翻 訳<] 小田島雄志
*[06  上演日<] 1995-01-13
*[09* 出 演<]平幹二郎
*[10*    <]鮫島有美子
*[11*    <]村井国夫
*[12*    <]勝部寅之
*[13*    <]後藤加代
*[14*    <]岩崎良美
 いきなり今年のベスト3に入る舞台を見てしまった。幕開きから気合が入っている。村井のイアーゴーの台詞がすごく切れがよく、ヒラッヒラッと変幻自在なのだ。受けのロダリーゴの石田圭祐の愛すべきボケもみごとで、呼吸がぴたっと合っている。ブラバンショーの勝部も今日は風格がある。薄暗い舞台に、上の方が広い歪んだ台形の門を遠近法風に三重に重ねた舞台装置がほのかに浮かび出て、去年の蜷川オセロの単調な大階段とは全然別の世界を作っている。
 で、いよいよ平のオセロの登場となるが、これがまたみごと。薄暗い舞台に黒塗りのメイクで、目と唇だけが白く浮き出ている。武人としての威厳だけでなく、さりげなく自分の功績を強調する台詞が決まっていて、幸四郎オセロより背負っているものが複雑だ。もう勝負あったなと思う。
 意外だったのは、勝部のブランバンショー。登場もよかったが、平のオセロと対峙するや、もう一回り骨格の大きな芝居を見せる。こんなに立派な役者だったのかと認識を新たにする。
 田代隆秀のヴェニス大公(軽量だが、実際のヴェニス大公は任期一年の議長だったのだから、これが実情だろう)の前でいよいよ鮫島のデズデモーナの登場。ここでの印象は素直だなくらいだったが、場を追うごとにどんどん存在感が強くなっていく。ライミングの若い女優たちだと、濡れ衣を着せられてなお誇りを失わない凛々しさは出るが(それはそれで感動的だ)、鮫島のような品格とたおやかさは出ない。これが貴族性なんだなと思った。鮫島と較べると、ライミングの女優たちはそのへんを歩いている小娘にしか見えないのだ。黒木瞳と較べても段違いにすばらしい。黒木だと不倫をしかねないが、鮫島だと絶対にそんなことはない。
 平のオセロは時々、思い入れたっぷりに台詞を歌ってしまう。大公と酒呑みのモンターノの二役をやった田代にもその傾向がある。このあたり、演出家の腕力不足だろう。渕野俊太のキャシオーはキャラクターが違うのではないか。彼では知的すぎる。
 しかし、イアーゴーが新婚のオセロに嫉妬を吹きこむ場面はすごい。はじめてちゃんと納得できた。オセロの誇りが崩れさり、嫉妬に狂うあわれな老人に一転する残酷さは見ものだ。
 寝室の場面は扉を閉めると、潮騒の音が消え、密室になることが強調される。この工夫で殺しの場面の説得性が高まった。
 エミリアの後藤加代がくどく、殺しの後がもたついたが、とにかく今までで最高のオセロだ。
*[01* 題 名<] 女人哀詞
*[02* 劇 団<] 松竹
*[03* 場 所<] 日生
*[04* 演 出<] 
*[05* 戯 曲<] 
*[06  上演日<] 1995-02-15
*[09* 出 演<]坂東玉三郎
*[10*    <]江守徹
*[12*    <]団次朗
 唐人お吉の後日談を世話というか、ほとんど喜劇タッチで描く。玉三郎がこんな役までやるのかと驚くが、うまくこなしていたし、伝法な台詞やすねる台詞に可憐さがただようのがこの人ならではだろう。
*[01* 題 名<] 窓からあなたが見える ──わが街・池袋──
*[02* 劇 団<] MODE
*[03* 場 所<] 東京芸術劇場小ホール
*[04* 演 出<] 松本修
*[05* 戯 曲<] 平田オリザ
*[06  上演日<] 1995-03-06
*[09* 出 演<]有園芳記
*[10*    <]小嶋尚樹
*[11*    <]坂口芳貞
*[12*    <]黒木美奈子
*[13*    <]品川徹
*[14*    <]三田村周三
 舞台には黒い無骨な自転車が四台ならんでいる。若者たちが出てきて、新聞の荷を解き、チラシの折りこみをはじめる。雑司ヶ谷にある新聞販売店の朝の風景で、徹夜明けの漫画家(トキワ荘の住人で、オバQのモデルになったが、後にアニメに転向)と、卒業式を控えて眠れなかった隣家の高校生があらわれる。
 気の抜けた舞台だなぁと思ったが、隣家の高校生は大学に行かず、名古屋の自動車整備の専門学校に行くことになっている。彼と同級生の新聞屋の娘は総代になり、大学に進学する。二人は好意をいだきあっているが、卒業を期に離ればなれになる。
 娘は大学で学生運動にのめりこみ、三年たって戻ってきた隣家の青年にプロポーズされても、自分だけ幸福になれないと断る。平沢定治の友人だったという怪しげな画家の「先生」や、さばけた巡査などが登場するが、全然ドラマにならない。舞台の両側にやぐらが組んであって、物干のイメージで、隣家の兄妹、新聞屋の姉弟がすわって詠嘆してほのぼのした雰囲気を出すものの、まったくだらけている。
 親が学生運動に困惑するのはリァリティがあるが、娘の方の女優はサークル活動みたいにしか考えていないようだ。中学卒業で東京に出てきて、新聞販売店を軌道に乗せ、娘を大学にやった親は、学生運動がどんなものか聞くために飲み屋に誘った隣家のサラリーマンに、「お宅の息子さんが大学にいかなかったので、わたしは内心鼻高々でした」と告白し、相手は「まあまあ」と思いやりを見せる。そういう対立を匂わせる場面は前には全然なく、説明だけでドラマがなし崩しにされる。
 なつかしい風俗への言及で笑いが起こるくすぐり劇か。
 あんまりつまらないので、幕間で出てくる。
 パンフによればワイルダーの「わが町」を元にしたという。この作者はやはり「わが町」を元に、「わたしが子供だった頃」北海道版、瀬戸内版を書いていると言う。
 二幕目で雑司ヶ谷墓地を出すのだろうか。あんまり近い過去で、ナツメロを流したり、当時の事件・風俗を出しているので、「わが街」のようにはならないと思うのだが。
 ただ、客席は満席で、開演一時間前にキャンセル待ちにならんで、補助席にぎりぎりですわれた。40人はいたが、入れたのは半分。わりにオジサンが多かったが、地元の人なのだろうか。
*[01* 題 名<] チェンジリング
*[02* 劇 団<] T.P.T.
*[03* 場 所<] ベニサン
*[04* 演 出<] ルヴォー,デビッド
*[05* 戯 曲<] ミルトン,トーマス
*[05*    <] ローリー,ウィリアム
*[05* 翻 訳<] 吉田美枝
*[06  上演日<] 1995-03-28
*[09* 出 演<]中川安奈
*[10*    <]堤真一
*[11*    <]岡本健一
*[12*    <]植野葉子
*[13*    <]戸井田稔
*[14*    <]黒木里見
 エリザベス朝の戯曲だけあって、エロ・グロ・ナンセンスのぐちゃぐちゃの芝居。イプセン劇で暗示されていた狂気が正面に出てきた。結婚式直前に出会った貴公子に一目ぼれしたために、ヒロインは忌み嫌っていた醜い下僕に婚約者を殺させるが、下僕に強迫されて操を奪われ、ずるずると彼との関係にのめりこんでいくという主筋もクレージーだが、副筋は精神病院の院長の欲求不満の妻に、二人の宮廷人が精神異常と白痴のふりをして言いよるという、またまたクレージーな話。婚礼の余興にまねかれることになった狂人たちに、踊りのリハーサルをやらせる場面は、Sun rise, sun setの音楽を背景に、すさまじい迫力。
 松岡洋子は朝日の演劇評で、「近松心中」のように副筋をファルスにした方がよかったと書いていたが、主筋の方が薬で処女を判定する場面や、初夜で処女でないことを見やぶられないように侍女とすりかわるが、何時間も戻ってこないので嫉妬に狂う場面があって、ファルスっぽい。副筋は狂人たちにムチで言うことを聞かせる助手のロリオ(飯田邦博)がすごすぎて、ファルスにはならないと思う。
 脇役に木冬社、NINAGAWA CO.、THE・ガジラ、蟷螂、状況劇場、一世風靡セピア出身者をそろえたのは成功しているが、岡本健一(存在感で負けている)と植野葉子(時代がかった台詞が駄目)がもの足りない。堤真一は頬に醜い傷のある汚れ役をみごとに演じきっていた。中川安奈は一本調子の面もあるが、結婚後、いよいよ美しくなって、ラストの恍惚とした表情で息絶える場面は感動的。
*[01* 題 名<] つくづく赤い風車
*[02* 劇 団<] 青年座
*[03* 場 所<] 池袋西口公演テント
*[04* 演 出<] 鈴木完一郎
*[05* 戯 曲<] 矢代静一
*[06  上演日<] 1995-04-14
*[09* 出 演<]西田敏行
*[10*    <]津田真澄
*[11*    <]津嘉山正種
*[12*    <]岩崎ひろし
*[13*    <]那須佐代子
*[14*    <]井上夏葉
 銀色の真新しいテント。外にはバス型の最新式の移動トイレ車。テント公演もずいぶん現代化したものだが、雨の日のテント芝居はちょっと寒かったし、マイクを使った音声はだぶって聞こえ、台詞が聞き取りにくかった。
 江戸で貧乏暮しをしていた小林一茶が、父親の死後、後妻とその子供たちの残る生家に帰って、ごうつくばりの財産争いをやって、意地をはりとおすという話だが、条件の悪いテントでやる必然性はないと思う。
 津嘉山は一茶の親友の北斎。土地に固執しない、颯爽とした風来坊だが、対照の妙はあまり出ていない。
*[01* 題 名<] 回転木馬
*[02* 劇 団<] 東宝
*[03* 場 所<] 帝劇
*[04* 演 出<] キャメロット
*[05* 戯 曲<] 
*[05* 翻 訳<] 
*[06  上演日<] 1995-05-23
*[09* 出 演<]鈴木ほのか
*[10*    <]市村正親
*[11*    <]金田龍之介
 まじめな女工が不良っぽい回転木馬の整理係に恋をして結婚する。妊娠するが、夫は職を失い、ピクニックで行った島で悪い友達にそそのかされ、強盗の片棒をかつぐが、失敗して船のタラップから落ちて死んでしまう。
 天国の裏庭にいくが、死んだ後に生まれた娘を助けてやれば、裏口から天国に入れてやるといわれ、一日だけ地上にもどる。
 トニー賞をとったそうで、ブロードウェーでは評判がよかったんだろうが、歌と踊りが売物の純正ミュージカルなので、日本のキャストではまるでつまらない。甘ったるいだけ。
*[01* 題 名<] うまくいった策略
*[02* 劇 団<] 櫻花舎
*[03* 場 所<] ジャンジャン
*[04* 演 出<] 守輪咲良
*[05* 戯 曲<] マリヴォー
*[05* 翻 訳<] 鈴木康司
*[06  上演日<] 1995-06-09
*[09* 出 演<]勝田裕子
*[10*    <]今裕幸
*[11*    <]博田章敬
*[12*    <]天祭楊子
*[13*    <]金巻幸恵
*[14*    <]川奈龍平
 おもしろい! マリヴォー劇とはこういうものだったか。
 純情一途なドラントをタカピーな伯爵夫人(勝田裕子)がやっつける場面のなんという残酷さ。本当に性格の悪いイヤな女なのだが、才知をちりばめたスピード感のある台詞が痛快で、後味は悪くない。
 ふられたドラントは、やはり伯爵夫人に恋人をとられた侯爵夫人に知恵をつけられ、彼女に夢中になったふりをして、伯爵夫人の嫉妬心を刺激する。侯爵夫人の天祭のかしこさが魅力的だ。伯爵夫人の単細胞的な可愛らしさがもっと出ればよかったが、あのタカピーそのものの顔では無理だ。
*[01* 題 名<] ラ・マンチャの男
*[02* 劇 団<] 東宝
*[03* 場 所<] 青山劇場
*[04* 演 出<] ロール,エディ
*[05* 戯 曲<] ワッサーマン,デール
*[05* 翻 訳<] 森岩男
*[05*    <]@高田蓉子
*[06  上演日<] 1995-06-26
*[09* 出 演<]松本幸四郎
*[10*    <]鳳蘭
*[11*    <]佐藤輝
*[12*    <]上条恒彦
*[13*    <]浜畑賢吉
*[14*    <]松たか子
 幸四郎と上条を残して、役者がいれかわる。「レ・ミゼラブル」と同じケースだが、やはりぎくしゃくしていた。鳳蘭のアルドンサが生硬で、男まさりの荒くれた口調が一本調子。サンチョの佐藤輝は人がよくて明るいものの、ややもの足りない。
 これは駄目かなと思ったら、キハーノの臨終の場面にかけつけたアルドンサの歌がすごかった。これで一気に盛り返し、感動のラスト。次回はもっとよくなるだろう。
*[01* 題 名<] 愛の森
*[02* 劇 団<] 文学座
*[03* 場 所<] 紀伊国屋
*[04* 演 出<] 鵜山仁
*[05* 戯 曲<] 清水邦夫
*[06  上演日<] 1995-06-30
*[09* 出 演<]平淑恵
*[10*    <]寺田路恵
*[11*    <]松下砂稚子
*[12*    <]坂口芳貞
*[13*    <]金内喜久夫
*[14*    <]内野聖陽
*[15*    <]清水明彦
 平家滅亡後、残党狩りをのがれて故郷の北陸に潜伏する祇王一家のもとへ、かつて清盛の寵愛を争った仏御前がおとずれ、祇王をしきりに挑発する。祇王はライバルの来訪をひそかによろこんでいる風でもある。実はこの仏御前は贋物で、精神に異常をきたし、衰弱した祇王を元気づけるために、母のふねが歩き巫女を金で雇ったもの
 清水邦夫得意の回想ごっこがつづけられ、祇王一家をかくまう湊一族内部の権力抗争がくわわる
 久々の清水の歴史ものだけに期待したが、結果は無惨。文学座の思い入れたっぷりの台詞回しが芝居を上滑りにしてしまった。特に、贋仏御前の平淑恵の演技がくさい
*[01* 題 名<] 三人姉妹
*[02* 劇 団<] T.P.T.
*[03* 場 所<] ベニサン
*[04* 演 出<] ルヴォー,デヴィッド
*[05* 戯 曲<] チェーホフ
*[05* 翻 訳<] 小田島雄志
*[06  上演日<] 1995-07-11
*[09* 出 演<]佐藤オリエ
*[10*    <]植野葉子
*[11*    <]倉野章子
*[12*    <]高畑淳子
*[13*    <]平田満
*[14*    <]木場勝己
*[15*    <]大鷹明良
 第一幕(原作の一幕、二幕)の窓から白夜の光がぼうっとさしこむだけの奥行きのある舞台(奥が食堂になっていて、客席より広いかもしれない)は憂鬱な雰囲気をかもしだして、ルヴォー得意の密室劇になっている。大火事を描く二幕目前半も、奥をふさいで部屋を狭くして、あわただしい雰囲気をよく出している。しかし、後半(原作の四幕)は明るくなったせいもあるが(舞台の奥は白樺林)、散漫な印象。最後でペースを乱した。
 今までいろんな「三人姉妹」を見たが、どれとも似ていない。人物の比重のつけ方が独特なのだ。オリガの倉野は十五年ぶりのカムバックだそうだが、ちょっと影が薄すぎる。マーシャの佐藤、イリーナの植野とくらべると見劣りする。ナターシャの高畑は、もともとエキセントリックな役にしても、とんでもなく突出していて、アンドレイの木場ともども、長男夫婦の存在を大きくした。老下女の中村美代子もこの役を大きくした。中心のない群衆劇という感じで、こういう解釈もあるのかと意表を衝かれた。
 マーシャとヴェルシーニンのロマンスが一つの軸だが、エキセントリックなくらいロマンチックに描いていて、このあたりルヴォー調だが、後半に活かされていないのが物足りない。
*[01* 題 名<] 青春の甘き小鳥
*[02* 劇 団<] 民藝
*[03* 場 所<] 紀伊国屋
*[04* 演 出<] 丹野郁弓
*[05* 戯 曲<] ウィリアムズ,テネシー
*[05* 翻 訳<] 丹野郁弓
*[06  上演日<] 1995-09-12
*[09* 出 演<]永島敏行
*[10*    <]奈良岡朋子
*[11*    <]里居正美
*[12*    <]日色ともゑ
*[13*    <]新田昌玄
*[14*    <]
 The sweet bird of youth というテネシー・ウィリアムズの若書き。去年、ロンドンで初演され、日本でもこれが初演。映画にはなっていたという
 永島・奈良岡のコンビなので期待したが、「怒りの葡萄」にははるかにおよばない。
 ハイスクールの演劇コンクールで全米大会に出場し、将来を嘱望されていたチャンス・ウェインという青年が、映画俳優になるという夢に破れて、ジゴロのようなことをやって流れ歩いている。往年の名女優のアレクサンドラといっしょに、南部の故郷の町にやってくるが、かつて愛しあった演劇の相手役で、地方のボス政治家の娘のことで、ただではすまないから早く町を出ろといろいろな人間がいってくる。黒人青年が性器を切りとられたように、彼も去勢されるかもしれないというのだが、彼は恋人を連れに来たといって、つっぱねる。二人の宿泊しているホテルでは、恋人の父親の政治集会があるが、恋人が手術を受けたこと(チャンスに性病をうつされたことになっているが、妊娠中絶のようでもある)を暴露され、騒然となる。その一方、チャンスの身を気づかっていたアレクサンドラは、カムバック第一作の映画が大ヒットしたと知って、チャンスのだらしなさを罵倒する。
 一幕目は説明的で退屈。二幕目は未整理で、ぎくしゃくしているが、永島敏行のパワフルな芝居をベテラン陣がうまく受けとめ、なかなか見ごたえのある舞台に仕上がっている。奈良岡のアレクサンドラはケバいメークは不自然ではないものの、胴長短足のスタイルは苦しい。恋人役があいかわらず日色ともゑだったのには絶句。民藝には他に娘役がいないのか。
*[01* 題 名<] 葵上
*[02* 劇 団<] T.P.T.
*[03* 場 所<] ベニサン
*[04* 演 出<] ルヴォー,デビッド
*[05* 戯 曲<] 三島由紀夫
*[06  上演日<] 1995-09-26
*[09* 出 演<]佐藤オリエ
*[10*    <]堤真一
*[11*    <]松本紀保
*[12*    <]松浦佐知子
 開演前から白い病院ベッドの上に女が寝ている。うめいたり叫んだりするだけで、台詞はなし。パンフレットを見たら、松本紀保とある。幸四郎の長女がこういう役でデビューするとは。
 佐藤オリエは妄執のかたまりのアオイさんを、理詰めで演じる。美しい台詞にこだわらずに、感情を顕微鏡的に細かく解析していく。これで一貫してくれれば面白かったのだが、松浦の看護婦はいわゆる三島調の歌い上げる台詞で、堤真一は新劇調の一本調子。ルヴォーのプランにはミスキャストだと思う。
*[01* 題 名<] 班女
*[02* 劇 団<] T.P.T.
*[03* 場 所<] ベニサン
*[04* 演 出<] ルヴォー,デビッド
*[05* 戯 曲<] 三島由紀夫
*[06  上演日<] 1995-09-26
*[09* 出 演<]佐藤オリエ
*[10*    <]堤真一
*[11*    <]松本紀保
 松本紀保はこちらでは台詞を喋った。能みたいなもごもごとした喋り方だ。妹のような華やかさはなく、優等生的な地味さ。狂女役は苦しい。
 佐藤オリエはこっちでも顕微鏡的な演技。三島劇らしくないが、こういう分析的な演出が今回のねらいなのだろうが、役者の力不足もあって、成功しているとはいえない。
*[01* 題 名<] 正劇室鷲郎
*[02* 劇 団<] 俳優座
*[03* 場 所<] グローブ座
*[04* 演 出<] 末木利文
*[05* 戯 曲<] 堤春恵
*[06  上演日<] 1995-10-27
*[09* 出 演<]加藤剛
*[10*    <]河津左衛子
*[11*    <]村上博
*[12*    <]児玉泰次
*[13*    <]神山寛
*[14*    <]河野正明
 欧米公演から帰国した川上音二郎一座が、凱旋興行として日本風に脚色した「オセロ」を上演する。舞台の両袖に桟敷があって、坪内逍遥、森鴎外、脚色者の博文館主筆とその弟子たちが陣どり、進行中の芝居にちゃちゃをいれるという趣向。オセロがキプロスならぬ台湾に総督として派遣されるという設定なので、児玉源太郎台湾総督の旗手という軍人も舞台に乱入してきたりする。
 なかなか笑えるのだが、音二郎=鷲郎が加藤剛というのは苦しい。音二郎のいかがわしい、ギラギラしたバイタリティに一番遠い役者で、オッペケペ節を披露しても、黒田節を舞ったみたいなのだ。貞奴の河津左衛子は新劇女優にはめずらしい鉄火肌で、よかったが。。
*[01* 題 名<] 女中たち
*[02* 劇 団<] シアターX
*[03* 場 所<] シアターX
*[04* 演 出<] 渡辺守章
*[05* 戯 曲<] ジュネ
*[05* 翻 訳<] 渡辺守章
*[06  上演日<] 1995-10-30
*[09* 出 演<]本木雅弘
*[10*    <]大浦みつき
*[11*    <]青山良吉
 最初の30分はすごかった。女装した本木のクレールが、フェロモンをむんむん発散させながら黒い下着でドレッサーの前でシナをつくる。さすが、モックン。女の子がつめかけるわけだ。
 しかし、女中にもどって、自尊心をいたぶりあう芝居になると、ボルテージががくんと落ちて、低空飛行。何度も破綻しかける。ソランジュの青山が本木を支えるどころか、状況劇場風の力んだ台詞まわしと一本調子の芝居で足を引っぱる。青山良吉は元早稲田小劇場の碓井氏だったが、渡辺守章演出の弱点が彼のくさい演技で増幅された。
 もう駄目かと思っていたら、奥様の大浦みつきの登場で舞台がもちなおす。演出を無視して、勝手に宝塚の芝居をやったのがプラスに働いた。
 奥様が旦那様をむかえに出た後は怒鳴りあうテンションの高い芝居がつづくので、比較的弱点をごまかせたが、クレールが首を締められて失神した後のソランジュの見せ場でまたも破綻しかける。青山のこぶしをきかせた台詞が聞くに耐えない。最初の予定通り、ソランジュを田口トモロオがやっていれば。
 白石加代子夫妻とか、早稲田小劇場・旧真空鑑関係者が客席にずらっといた。
*[01* 題 名<] 人さらい
*[02* 劇 団<] 第七病棟
*[03* 場 所<] 福井中学校
*[04* 演 出<] 石橋蓮司
*[05* 戯 曲<] 唐十郎
*[06  上演日<] 1995-10-31
*[09* 出 演<]緑魔子
*[10*    <]石橋蓮司
*[11*    <]
*[12*    <]
*[13*    <]
*[14*    <]
 浅草橋ガード横の廃校になった中学を改造した仮設劇場が最高。玄関をはいった左手が舞台のある講堂だが、観客は右手におれて、狭い中庭(古新聞の集積場になっていて、ライティングされた巨木の緑が美しい)をロの字型に囲んだ校舎を通りぬけなければ、講堂までいけない。校舎はつい昨日まで使われていたかのようで、廊下の壁には標語や連絡が貼ってあり、生活感が濃厚に立ちこめている。医務室だけは思わせぶりにボウッと照明がついていて、白い鉄製のベッドがぽつんと置かれている。最後の角を曲ると、廊下は炭鉱の坑道にかわり、床は砂利敷きでトロッコの線路が引かれ、照明はところどころに吊り下がったランタンだけ。よくぞここまでやってくれたと感嘆する。
 しかし、芝居そのものはつまらなかった。役者はレベルが高いし、熱演しているのだが、台本が支離滅裂。オウム事件の後日談らしいのだが、腰がひけている。緑魔子のかわいい役は鬼気迫るものがある。
*[01* 題 名<] 山ほととぎすほしいまま
*[02* 劇 団<] まにまアート
*[03* 場 所<] 前進座劇場
*[04* 演 出<] 立沢雅人
*[05* 戯 曲<] 秋元松代
*[06  上演日<] 1995-11-01
*[09* 出 演<]徳永街子
*[10*    <]渥美國泰
*[11*    <]佐々木敏
*[12*    <]藤田みどり
*[13*    <]島田桃子
*[14*    <]仙北谷和子
 今ではめずらしい書き割り舞台。竹岡家のまわりの欝蒼たる木立も、藤代家の瀟洒な邸宅から見える海も、すべて泥絵の具で描いたもの。それはいいのだが、サンシャイン劇場の公演の時のセットによく似ていて、安っぽいコピーという感じがしてしまう。台本には舞台装置まで指定しているわけではないのだから、予算がないのなら、べつのデザインを考えるべきだった。
 徳永のあさ女はだみ声のせいか、所帯じみた生活感があり、いやな女の側面が強く出ていた。太地喜和子の時はかわいさで隠されていた部分がはっきり出てきたわけだ。渥美の岳堂はいかがわしさと俗物のふてぶてしさがあって、日下武よりよかった。
Copyright 1996 Kato Koiti

演劇
ほら貝目次