はじめに

加藤弘一

 記号学なんて今さらだ、記号学なんて終わっていると考えている人もすくなくないかもしれない。確かに、記号学とはたいして関係がないのに『○○の記号学』と銘打った便乗本は見なくなった。記号学のブームは終わっている。

 しかし、ブームが終わったからといって、記号学まで終わったわけではない。

 ソシュールの原資料は継続的に翻訳されているし、丸山圭三郎の本でちらりと触れられているだけだったソシュールの神話研究や政治思想を紹介した本まで今年になって出版されている。

 ソシュールと並ぶもう一人の記号学の創始者、パースの研究も盛んだ。先日は『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』という凄い題名の本まで出ている。

 記号学は終わっていない。むしろ、ようやく本当のはじまりをむかえたというべきだろう。

 記号学を探すために、このサイトを立ちあげた。毎週、記号学関係の本を一冊づつ紹介していくが、時々は感想なども書いていきたい。

 本を選ぶ規準について一言。

 記号学関係の本は何百冊とあって、これからも増えていきそうだが、現在入手できる本を優先する。デ・マウロの『「ソシュール一般言語学講義」校注』は重要な本だが、絶版なのでとりあげるとしても相当後になる。丸山圭三郎の『ソシュールの思想』も欠かすことのできない本だが、現時点では著作集版しか手に入らないので、文庫になるのを待つことにしたい。

2017年11月8日