Maria's Lover

　封切で見て、名画座を追いかけて、さらにフジTVでやっていた深夜のノーカット版で見てと、5〜6回は見ている計算になる。今回も引きこまれた。キース・キャラダインの甘い歌声が耳にしみる。

　第二次大戦から復員してきたイヴァンが、幼なじみで憧れの女性、マリアと結婚するものの、夫婦生活がうまくいかず、いたたまれなくなって家出する。マリアがイヴァンの失踪先に訪ねていく場面もあって、「パリ、テキサス」の裏返しのような話だと気がついた。ナスターシャ・キンスキーのような天使的存在と暮らすのは人間の男には無理なのだろう。

　ややセピアがかった郷愁を誘う色彩は封切時からで、経年変化ではない。流線型のジューク・ボックスや真っ赤なルージュなど、1940年代風俗の再現が楽しい。東欧からの移民の集まる田舎町という設定は前から気になっていたが、検索したところ、ブラウンズビルという町はたくさんあって、テキサス州説、テネシー州説、ペンシルバニア州説と、耶馬台国なみに乱立しているではないか。最終的にはBROWNSVILLE TIME CAPSULEという地元紙の記者書いたコラムの説が正しいのだろう。

　アパラチア山脈の鉱山開発で東欧からの移民がたくさん流入したそうで、汗臭いブルーカラーの町である。「ビューティフル・マインド」のジョン・ナッシュは州は違うが、この近くの生れで、シルヴィア・ナサーの原作には第二次大戦直後のこのあたりの風俗が描かれている。

　このDVDは両面一層で、表に16:9スクイーズ版、裏に4:3版を収録している。フィルムの傷は若干ある。転送レートは並で画質はまあまあ。このマスターではこれ以上の画質は難しいのもしれない。日本版が間もなく出るが、どうなるのだろう。

　一昔前の映画なので、特典は予告編しかないが、フランス語版を聞いていて驚いた。マリアはナスターシャ・キンスキー自身が吹きかえている？！