金星ロケット発進す

加藤弘一 *[01* 原 題<] Der Schweigende Stern
*[02* 製作年<] 1960
*[03* 監 督<] メーツィヒ,クルト
*[03* 原 作<] レム,スタニスワフ
*[04* 出 演<] 谷洋子
*[04*    <] ルークス,オルドリッチ
*[05* 製 作<] WHD Japan
*[05* 地 域<] R2、NTSC
*[06  枚 数<] 片面1層
*[06  時 間<] 78分
*[06* 音 声<] 英語
*[06* 字 幕<] 日本語
*[06* 画 面<] 4:3
*[07  特 典<] なし
*[08* 作 品<]☆☆
*[08* 特 典<]
*[08* 画 質<]
*[08* 音 質<]

 レムの『金星応答なし』の映画が780円の激安DVDシリーズで出ていた。こんな映画が作られていたなんて知らなかった。しかも、ヒロインとして一番最初にフィーチャーされているのは 谷洋子 という日本人女優ではないか。

 1959年に東ドイツとポーランドの合作で製作され、日本では1961年に松竹系で公開されているらしい。このDVDは1962年公開のアメリカ版に字幕をつけたもので、台詞は英語に吹替られている。IMDbによると、東ドイツ版95分(註)、ポーランド版93分、西ドイツ版80分、アメリカ版79分となっている。15分ほどカットされているためか、人工冬眠の場面など、つながりのおかしな部分が散見する。

註:アメリカでは1962年の短縮版のDVDが「First Space on Venus」として売られているが、2005年に DEFA Sci-Fi Collection から 95分の東ドイツ完全版が「Silent Star」という題名で再DVD化された。ドイツ語英語字幕ということだから、信頼できるバージョンだろうと思われる。

 ヒロインのスミコ・オミグラ(谷洋子)は医者で探検隊の紅一点だが、原作には登場していない。原作のように男ばかりではむさ苦しいので、女性をいれたいという意図はわかるが、なぜ日本女性だったのか。

 谷洋子という女優ははじめて見たが、今では絶滅してしまった凛々しい大和撫子である。細川晋氏の「世界映画DVD発見」によると、本名は猪谷洋子で1928年にパリで生まれた。2歳で日本にもどったが、1950年に渡仏し、パリ大学で学んだ後、映画に出演するようになり、1999年にパリで亡くなった。「世界各国のB級映画に出演、特に60年代スパイ映画が多いが大半は日本未公開」だそうである。IMDbのYoko Taniの項目によると、1954年から86年までの33年間にフランス、ドイツ、英国、イタリアなどの映画52本にに出演している。金星探検隊はさまざまな国籍のメンバーが参加する国際チームなので、女性をくわえるなら東洋人と考え、谷洋子に白羽の矢が立ったということか。彼女は国際派女優第一号といっていいが、活動がヨーロッパ中心だったので、早川雪洲のような具合にはいかなかったのだろう。

 原作の主人公はロバート・スミスという冗談のような名前のアフリカ系ロシア人である。映画にも登場しているが、宇宙船の操縦桿を握っているだけの脇役にすぎない。原作ではソ連に亡命したアフリカ系アメリカ人を祖父とするクォーターという設定だったが、映画では純然たるアフリカ系の俳優が演じているようだ。アフリカ系ロシア人の俳優なんてなかなかいないだろう。

 さて、映画であるが、レトロSFとしてなかなかおもしろかった。巨大な尾翼のついたロケットはかっこいいが、技術的にはありえない。よくレムが許したものだ。

 原作には思ったよりも忠実で、『ソラリス』に発展することになる原形質の河や、『砂漠の惑星』の原型となった昆虫ロボットもちゃんと登場する。レムの愛読者は見る価値がある。

 画質はぼけぼけだが、極度のソフトフォーカスといえないことはない。音質はそれなり。特典がなにもないのはPD作品だからしかたがない。

 こうなるとDEFA版が気になってくる。ノーカットである上に、画質はこれよりは確実にいいだろう。資料も若干ついてくるようだ。

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